秋が深まると、境内一面が息を呑むような「黄金色の絨毯」に覆われる場所があります。
喜多方市にある「新宮熊野神社」。私自身、かつて本場の紀州(和歌山県)にある熊野三山を巡礼した経験があり、同じ神様をお祀りしているこの神社には特別な親近感を抱いています。
長年、秋の「大イチョウのライトアップ」を目当てに訪れることが多かったのですが、実はこの神社の真の魅力は、そのイチョウの後ろに静かに佇む「謎だらけの巨大建築」にあります。
今回は、国の重要文化財にも指定されている平安末期の奇建築「長床(ながとこ)」のミステリーを探求してみましょう。
【建築ミステリー】なぜ「壁」が一切ないのか?
境内に入ってまず目を奪われるのが、巨大な茅葺き屋根を支える「長床」です。
直径約45cmもある太い円柱が等間隔に44本も並んでいるのですが、驚くべきことに「壁や扉が一切なく、完全に吹き抜けの空間」になっています。
平安時代末期から鎌倉時代初期の「寝殿造り(貴族の邸宅様式)」を踏襲していると言われていますが、一体誰が、何のためにこのような特殊な建物を造ったのでしょうか? 皆さんはどう推理しますか?
身分の壁を取り払う「おおらかな大空間」
一説には、「山伏(修験者)たちが厳しい修行を行う道場だった」とも言われていますし、最近の研究では「身分にかかわらず、神社の関係者が序列をつけずに一同に会して宴会(もてなし)を行うための大空間だったのではないか」という大変興味深い見解も出されています。
壁がないからこそ、風が吹き抜け、身分の壁も取り払われる。そんなおおらかな古代の空気が伝わってくるようです。
飛騨の匠とアマノジャク?「長床の七不思議」
長床のミステリーは、建物の構造だけではありません。地元には、このお堂にまつわる「七不思議」が語り継がれています。
- 三社の屋根には鳥がとまらない。
- 長床に鳥が巣をかけない。
- 長床の中には蚊が入らない。
- 長床の北西の隅にだけ、板が敷かれていない。
- 村に火災が起こっても、二軒以上は燃え広がらない。
- 栗が一年生で実をつける。
- 熊がやってきて神前に詣でる。
特に面白いのが「4番」です。
伝説によると、飛騨の匠が「この拝殿を一夜で建ててみせる!」と誓いを立てて懸命に仕事をしていました。しかし、いたずら好きな妖怪・アマノジャクが鶏の鳴き真似(コケコッコー!)をしたため、匠は「もう夜が明けてしまったか……」と勘違いして工事をやめてしまい、一角だけ床板が張り残されてしまったのだとか。
完璧な建築物にあえて残された「不完全さ(隙)」に、昔の人のユーモアと民俗学的なロマンを感じずにはいられません。
樹齢800年の大イチョウと、源氏の足跡
この長床の前に堂々とそびえ立つのが、高さ30m・幹回り7.7mにも及ぶ大イチョウ(喜多方市天然記念物)です。
樹齢は800年とも言われ、江戸時代の書物(新編会津風土記)にも「神社の創建の頃からある古木」と記されています。
圧倒的な空間美と歴史の息遣いを感じる旅へ
いかがでしたでしょうか。
壁のない長床の柱の間に立ち、秋風に舞う黄金色のイチョウの葉を眺めていると、平安時代の修験者や武将たちと同じ時間を共有しているような、不思議な感覚に包まれます。
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