【会津・歴史探訪】13歳の少年たちが、命懸けで挑んだ山 ── 法用寺と飯豊山修験道の物語


福島県大沼郡会津美里町雀林。会津盆地の南西、田畑のなかにひっそりと、その寺はあります。

境内には、東北では珍しい三重塔が静かにそびえ立ち、本堂と観音堂が古い佇まいを残しています。

ここが法用寺(ほうようじ)養老4年(720年)創建の、会津最古級の天台宗寺院です。

けれど、法用寺の本当の物語は、この静かな現在の境内からは想像できないところにあります。かつてここは──会津から南へ伸びる霊峰・飯豊山(いいでさん)信仰の、最大の拠点でした。

飯豊山を統括した「別当寺」

飯豊山は、福島・新潟・山形の三県境にそびえる標高2,105mの山。古くから「死後の魂が還る山」とされ、東北の山岳信仰の中心の一つでした。

法用寺は、この飯豊山信仰を統括する「別当寺(べっとうじ)」──いわば信仰の本部のような寺院として、長い時代を生きてきました。

最盛期には、33の僧坊が境内に立ち並んだと伝えられています。多くの修験者と参詣者がここを訪れ、装束を整え、祈りを捧げ、そして山へと向かいました。

(別当職は、後に天文8年(1539年)に蓮華寺へ移ります。けれど別当としての時代だけでも、800年以上にわたって法用寺はこの地の信仰の中心でした。)

13歳の少年たちが、命懸けで挑む

飯豊山の修験道には、もう一つ、忘れてはならない側面があります。

会津の村々では、13歳になった少年は、飯豊山に登拝することで「一人前の男」と認められるという通過儀礼が、長く続いてきました。

けれど、それは決して「儀礼」と呼べるような軽いものではありません。標高2,000mを超える山を、当時の装備で、子どもが登るのです。命を落とした少年も少なくありませんでした。

その登拝の前に、少年たちは法用寺の観音堂にこもり、3日から7日間の厳しい修行を行いました。

  • 潔斎(けっさい)──身を清め、肉や生臭物を断つ
  • 水垢離(みずごり)──冷たい水を浴び、穢れを祓う
  • 柱への墨書──観音堂の柱に、自分の名と「安全な帰還」への祈りを書き残す

そうして心身を整えた少年たちが、山へと向かいました。

柱に残る、少年たちの決意

観音堂の柱には、今も登拝前の少年たちが書き残した墨書の跡が、わずかに残っています。

名前、年齢、日付、そして無事を祈る短い言葉。100年、200年、それ以上前の、少年たちの直筆です。

「自分は、この修行を耐え抜きます」「無事に帰ってきます」

そう書き付けた一文字一文字に、その子どもの恐れと、覚悟と、家族への思いが滲んでいます。あるいは、山から帰ることなく、墨書だけが残された少年もいたかもしれません。

知ってから歩く、法用寺

今、法用寺を訪ねれば、静かな田園のなかに建つ穏やかな寺院に見えます。観光ガイドブックには「会津五桜のひとつ・虎の尾桜」「県の重要文化財・三重塔」と書かれている程度です。

私たちは法用寺をご案内するとき、お客様には先に観音堂の柱に近づいて、目を凝らしていただきます。「あ、本当だ、字が見える」とつぶやかれた瞬間、お顔つきが変わります。そこからの本堂参拝は、まったく別のものになります。

かつてここが33の僧坊を擁する大伽藍であり、毎年夏に13歳の少年たちの命懸けの修行の場であったことを知ってから歩くと、まったく違う風景が立ち上がってきます。

観音堂の前で立ち止まれば、冷たい水を浴びる少年たちの姿が、ふっと境内に重なって見えてくる。柱を見上げれば、墨書のかすかな跡が、時間を超えて何かを語りかけてくる。

旅というのは、結局そういうものではないかと思うのです。どこを旅するか、ではなく、どれだけ知って歩くか。

法用寺を訪ねるなら

法用寺は、福島県大沼郡会津美里町雀林。会津若松市街から車で約30分。会津若松・鶴ヶ城方面から南へ向かう田園の中にあります。

三重塔と虎の尾桜

境内の三重塔は福島県の重要文化財に指定されています(国指定ではありません。雪国の三重塔は珍しく、この寺の歴史の重さを物語る建築です)。春には会津五桜のひとつ「虎の尾桜」が境内に咲き、桜と三重塔の組み合わせは会津屈指の春景色です。

観音堂と墨書の柱

観音堂の柱に残る少年たちの墨書は、注意して見ないと見落とすほど、時間に薄れています。訪問時には、ぜひ柱に近づいて、その痕跡を探してみてください。

あわせて訪ねたい場所

  • 伊佐須美神社(会津美里町) ── 会津総鎮守の古社。法用寺と合わせて訪ねたい、会津信仰の核。
  • 慧日寺跡(磐梯町) ── 平安初期、徳一菩薩開基の東北最古級の寺院。会津の仏教史を辿る一日に。
  • 会津若松・鶴ヶ城 ── 法用寺から車で約30分。

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参考資料

この記事を書いた人

キャサリン ── 福島県・裏磐梯と会津に半世紀暮らすガイド。プライベートツアー会社「旅の糸」主宰。ガイド歴30年以上、地元の自然・歴史・信仰文化に深く精通。一日1組限定で、ガイドブックには載らない土地の物語をお伝えしながら裏磐梯と会津をご案内しています。

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