喜多方市の市街地から少し足を伸ばすと、静かな山間に「熱塩(あつしお)温泉郷」が見えてきます。その名の通り、塩分を含んだ熱いお湯が湧き出るこの温泉街の突き当たりに、荘厳な雰囲気を漂わせるお寺があります。
曹洞宗の名刹「護法山 示現寺(じげんじ)」。 実はこのお寺、アニメや歌舞伎でもおなじみの超有名な「大妖怪」にまつわる、ものすごい伝説を持った和尚様が開いた場所なのです。
今回は、ひとつの境内に日本史の様々なドラマが凝縮された、示現寺のディープな見どころをご案内します。
【ミステリー①】九尾の狐を打ち砕いた「源翁(げんのう)和尚」
示現寺を語る上で欠かせないのが、1375年にこのお寺を再興した「源翁心昭(げんのうしんしょう)禅師」です。
皆さんは「九尾の狐」の伝説をご存知でしょうか? 絶世の美女に化けて中国や日本の権力者に取り入り、国を滅ぼそうとした恐ろしい金毛九尾の妖狐。陰陽師に正体を見破られ、那須野(栃木県)へ逃げ込んで巨大な毒石(殺生石)となり、近づく生き物の命を奪い続けていました。
「金槌」の語源となったスーパー僧侶
何世紀もの間、誰も手を出せなかったこの殺生石を、大きな金槌(ハンマー)で打ち砕き、見事狐の怨念を鎮めたスーパー僧侶こそが、この源翁和尚なのです。(ちなみに、現在でも大工道具の金槌(トンカチ)のことを「玄能(げんのう)」と呼ぶのは、彼に由来しています!)
境内にある開山堂には、和尚が池に映る自分の顔を見ながら彫ったという木像が安置されており、今も静かにこの地を見守っています。
【ミステリー②】越後の大工と、境内に潜む「キリシタン」の影
示現寺の境内を歩くと、次々と歴史の不思議に遭遇します。
例えば、会津三十三観音の第5番札所でもある「観音堂」。 ここに施された見事な松や菊の透かし彫りは、安土桃山時代の作風を伝える名作です。これは農閑期に出稼ぎに来ていた新潟の「間瀬大工(ませだいく)」と呼ばれる凄腕の技術者集団によって造られました。当時の会津において、彼らは一種の「一流ブランド」だったのです。
さらに境内を散策し、墓域へ足を踏み入れると、ハッとするような光景に出会います。
自由民権運動から、福祉の母、そして懐かしの味へ
示現寺の懐の深さは、それだけではありません。
境内には、明治時代の過激な反政府運動「加波山事件」で命を落とした志士たちの顕彰墓がひっそりと佇んでいます。
さらにその上には、日本の社会福祉の先駆者であり「明治のナイチンゲール」と称された瓜生岩子(うりゅういわこ)のお墓も。彼女は戊辰戦争で敵味方なく負傷者を看病し、野口英世の母が産婆の資格を取る際にも尽力した、会津が誇る偉大な女性です。
妖怪退治、隠れキリシタン、激動の幕末と明治維新。 これほどまでに濃密な歴史のエネルギーを感じた後は、少し甘いもので一息つきたくなりますよね。
会津の優しくて懐かしい味
私にとって「熱塩温泉(示現寺)」といえば、祖母がよくお土産に買ってきてくれた銘菓「九重(ここのえ)」の思い出と重なります。 黄色い小さな粒をお湯に浮かべると、チロチロとかわいい音を立てて溶け、柚子の香りがふわりと広がる。会津塩川町の「奈良屋」さんで、今も女性たちの手仕事によって大切に作られている、優しくて懐かしい郷土の味です。
「旅の糸」では、こうした一つの境内に詰まった膨大な歴史のドラマを、ガイドのストーリーテリングと共に紐解く【教養(Academic)スタイル】のツアーをご用意しております。
「点在する歴史の痕跡を、線で繋ぐ知的な体験がしたい」 「歴史のディープな余韻を、地元の名菓と共に味わいたい」
そんな方は、ぜひ私たちと一緒に熱塩温泉・示現寺の境内を歩いてみませんか?